東京高等裁判所 昭和60年(ラ)309号 決定
抗告人の提出にかかる抗告人・株式会社トーコン・メデイカル(代表取締役秋山尚彦、渡辺嗣夫。以下「破産会社」という。)間の本件医療器械の売買契約書(以下「本件売買契約書」という。)によれば、その売主欄には、抗告人の営業所の所在地及び抗告人医療機器部との不動文字による表示がされ、抗告人医療機器部の部印が押捺されているほか、担当係員として置田泰和の署名及び認印があり、買主欄には、破産会社の営業所の所在地及び会社名の社判による記名、破産会社の社印及び「秋山」との押印があるところ、本件売買契約書の売主欄及び買主欄のこれらの表示又は押印と同一当事者間において過去数次にわたって締結された医療器械の売買契約に際して作成された抗告人の提出文書中の契約書の売主欄及び買主欄の表示又は押印とを対比しその余の提出文書を勘案すると、本件売買契約書が真正に成立したものであることに疑いを容れる余地はない。
そして、本件売買契約書に抗告人の提出文書中の販売原票、納品書、出荷指図書、受領書及び本件器械の受領者斎藤貞子作成の証明書を併せ判断すると、抗告人が昭和六〇年二月二六日本件医療器械をその主張の代金額で破産宣告前の破産会社に売り渡す契約を締結して同月二七日これを破産会社に引き渡したこと及び破産会社が同年三月一五日に破産宣告を受けて相手方が破産管財人に選任されたことの事実を認めることができ、抗告人がこれによって本件先取特権を取得したことは明らかである(動産売買の先取特権について民事執行法一九三条一項にいう「担保権の存在を証する文書」の提出があったということができるためには、申立人の提出文書自体から担保権の存在が証明されなければならず、その前提として当該文書が作成名義人によって作成されたものであることが証明されるのでなければならないことは当然であるが、これらの証明の有無は専ら裁判所又は裁判官の自由な心証によって決すべきことであって、商業登記法二〇条所定の届出印又は銀行取引印の押捺のある売買契約書が提出されたときに始めて右の証明があったものとみなすなどとの特定の証拠法則を容れる余地はないし、民事執行法一九三条一項の規定の解釈上、同条同項にいう文書が商業登記法二〇条所定の届出印又は銀行取引印の押捺のある売買契約書に限られるものでもないことはもとよりいうまでもない。また、動産売買の先取特権に基づく物上代位による転売代金債権の差押命令の申立てに当たっては、債権者において当該動産が債務者から第三債務者に転売されて差押債権が発生し又は存在することの事実まで証明する必要があるものではない。)。
したがって、抗告人の本件債権差押命令の申立は、正当としてこれを認容すべきである。
(西山 越山 村上)